中山知行 弁護士

静岡県弁護士会所属 富士市

相続の効力等 共同相続における権利の承継の対抗要件 相続分の指定がある場合の債権者の権利の行使

民法

(共同相続における権利の承継の対抗要件)
第八百九十九条の二 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
2 前項の権利が債権である場合において、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。

 

(1)共同相続における権利の承継の対抗要件
判例は、相続による法定相続分に応じた持分の取得については、対抗要件は不要であるとしつつ( 最判昭和38年2月22日判決)、遺贈や遺産分割による法定相続分を超える部分の取得については、対抗要件の具備なくして第三者に対抗できないとしています(最判昭和39年3月6日判決最判昭和46年1月26日判決)。

他方、遺言により相続分の指定がなされた場合の不動産の権利取得については、登記なくしてその権利取得を対抗できるとし( 最判平成5年7月19日判決)、また、「相続させる」旨の遺言がなされた場合、これを遺産分割方法の指定にあたるとした上で、当該遺言による不動産の権利取得については、登記なくして第三者に対抗できるとしています(最判平成14年6月10日判決)。
このため、相続分の指定や遺産分割方法の指定がなされた場合に遺言の内容を知り得ない第三者の取引の安全を害するおそれがありました。

そこで、遺言(相続分又は遺産分割方法の指定)によって権利を取得した場合であっても、法定相続分を超える部分については、対抗要件がなければ第三者に対抗できないとの規律がなされました。

なお、相続放棄については、放棄により遡及的に相続人でなかったことになるため、もとから相続により権利を取得することはなく対抗問題は生じないため、これまでどおり対抗要件は不要です(最判昭和42年1月20日判決)。

また、899条の2第2項に関して、債権については、本来であれば対抗要件具備のためには非承継相続人からの通知が必要となるところ、自らの意思で債権譲渡をした譲渡人とは異なり、非承継相続人からの通知は一般的に期待できないことから、承継相続人からの通知をもって対抗要件具備を認めることとされました。

(2)相続分の指定がある場合の債権者の権利行使
相続財産についての相続分の指定は、相続債務の債権者の関与なくしてされたものであることから、相続分の指定がされた場合でも、相続人は、相続債権者から法定相続分に従った相続債務の履行を求められたときにはそれに応じなければなりませんが、相続債権者のほうから相続分の指定の効力を承認して指定相続分に応じた相続債務の履行を請求した場合には、法定相続分に基づく履行の請求はできないこととしました。

これは、相続分の指定は相続債権者に対してはその効力は及ばないとする判例(最判平成21年3月24日判決)の考え方を明文化し、さらに、相続債権者がひとたび指定相続分を承認したときには、法定相続分に基づく履行の請求はできなくなることを明記したものです。

(相続分の指定がある場合の債権者の権利の行使)
第九百二条の二 被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、前条の規定による相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対し、第九百条及び第九百一条の規定により算定した相続分に応じてその権利を行使することができる。ただし、その債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この限りでない。

 

弁護士中山知行